学部長メッセージ医学科

医学部長伊佐 正

京都大学医学部は、1899年(明治32年)に京都帝国大学医科大学として創立されて以来、百有余年の歴史と伝統をもつ医学部です。全国各地から、京都大学の特徴である「自由の学風」のもとで自らを高める高い志を胸に秘めた気鋭の若者が集い、長い歴史を持つ京都の地で日々互いに切磋琢磨することで、幾多の日本・世界をリードする医学者・医学研究者を輩出するとともに、多くの独創的な医療や研究成果を発信してきました。

疾患で苦しんでおられる多くの人たちに福音をもたらすことができるよう、疾患の克服に誠心誠意尽力すること、それらに資する人材を育成することを京都大学医学部は目指しています。そのためには医学・医療の最先端の知識と技術を体得することは必須ですが、それだけでなく、広範な分野にわたる教養と技術の習得も不可欠です。また、医療を受ける側の人たちや共に働く人たちの立場に立って考えることのできるコミュニケーション能力と倫理観の涵養も必要です。それらの素養を総動員し、高い知的好奇心に基づく鋭い観察力、その観察を踏まえた実践、深い洞察をより未知なる命題を解明して、独創的な新たな価値観を創造できる人材の育成を目指します。

京都大学医学部は医学者・医師を養成する医学科と理学・作業療法士・臨床検査技師・看護師などの高度医療専門職を養成する人間健康科学科から構成されていますが、これまで培われた学風・伝統を大切にしつつ、現代・未来の医学・医療を担う人材の育成を目指して、両学科ともに教育カリキュラムの変革を行って参りました。医学科では医学・医療人として身につけるべき必修科目である、基礎医学・臨床医学のカリキュラムと73週の診療参加型臨床実習に加え、国際化を視野に英語で医学を学べる講義なども行っています。さらに、いくつかの独自の教育プログラムとして、1回生時から本研究科に所属する多様な研究室で研究に従事するMD研究者育成プログラムや、4回生時には夏期休暇を含めれば4ヶ月近くの期間、様々な自主研鑽(研究室での研究、海外研究施設への短期留学など)を行うことのできるマイコース・プログラム、さらに進んで高度な研究への熱意を有する学生さんにはMD‐PhDコースを用意しています。同コースには、4回生終了時に直ちに大学院へ進学し学位を取得した後、再度臨床実習に戻り医師資格を取得する挿入型コースと、6年間の学部生の間にMD研究者育成プログラムを修めた学生が引き続き大学院に進学する卒後型コース、2種のコースが準備されています。これら多くの活動が、2020年初頭より始まった新型コロナウイルスの感染拡大に伴って中断や制限を余儀なくされましたが、その間も教員と学生、さらには事務職員の皆さんの真摯な努力によってオンライン講義の活用も含め、効率的な運用に向けた様々な工夫と努力がなされてきました。今後も予断は許しませんが、コロナウイルスの感染終息後に向けて、IT技術も含め、新しい教育手法を組み込んだ、さらに充実した教育プログラムを確立してまいりたいと考えています。また、2016年度からは研究志向の高い学生さんに向けた特色入試も始めております。特色入試での入学者にはMD研究者育成プログラムへの参加を求めています。ここでは、特に多様なバックグランドをもつ人材の確保を目指して入学者の選抜を行っており、それにより、一般入試で入学した学生との間での良い相互作用が生まれていると感じています。京都大学医学部では学生の自主性を重んじ、学生が講義の合間を縫って自由に興味のある研究室に出入りし、セミナーや研究に参加することを奨励してきました。「自学自習」「独創性を尊ぶ」京都大学医学部の伝統を踏まえ、これらのプログラムによって、各々の興味や関心に従って自主的に履修しようとする学生の皆さんを全面的にサポートしたいと考えています。
人間健康科学科は、これまで看護師、理学療法士、作業療法士、臨床検査技師などの国家資格を有する医療人を養成してきました。しかし、近年の医療の急速な発展を踏まえ、それら国家資格を持つ医療従事者のみではなく、現代・未来の医療に不可欠な人材の育成を目指して、先端看護科学コース、先端リハビリテーション科学コース、総合医療科学コースの3コースに改組しました。入学試験は、コース別ではなく学科として一括で行い、入学後、それぞれの仕事に実際に触れてから自分の希望するコースを選択できます。ただし、既に看護師、理学療法士、作業療法士になりたいと決めておられる場合は、特色入試を受験することで希望のコースに入学することができます。総合医療科学コースでは、4回生の研究室配属でiPS細胞研究所を始め、医学研究科に所属する研究室で研究に従事することが可能です。

京都大学医学部の最も重要な使命は、京都大学らしく学生の皆さんの自由を尊重しつつ、多くの世界をリードする国際的な医学研究者・医療人を育て輩出していくことです。皆さんには、自ら進んで教員にアクセスして、自らを高め、人と人との触れ合いを通じて世界をリードする人材に育っていただきたいと思っています。私たち京都大学医学部の構成員はそのような人たちへの支援は惜しみません。それが京都大学医学部の長い歴史と伝統を通じて共有されている精神なのです。