先端作業療法学講座の理念
作業療法とは、個人にとって価値や目的のある日常生活活動(生活行為)を主な手法として、心身両面の生活・社会機能の維持、増進を図るクライエント中心型のリハビリテーションです。作業療法学は、解剖学、生理学、神経学、精神医学、心理学などの幅広い基礎学問のうえに成り立ち、近年では脳科学の発展にともなう科学的根拠が集積しつつあります。
京都大学では、作業療法士の国家資格を取得し、臨床現場で活躍できる知識・技術・豊かな人間性を備えるための教育にとどまらず、世界レベルの研究・高度実践により作業療法の進歩と発展を牽引する役割を担う人材を育成します。最先端の専門知識と応用技術を学び、独創的・科学的な視点から課題解決に取り組む力を身につけるためのカリキュラムを設定しています。
作業療法の紹介 ~対象領域~
作業療法には、主に4つの専門領域があります。年齢に関係なく、日常生活に支援が必要な全ての人が作業療法の対象です。(写真は臨床模擬場面です。)
先端作業療法学講座が育成する人材
先端作業療法学講座で育成する人材像は以下の通りです。豊かな人間性と幅広い視野を有し、作業療法の進歩と発展を研究、高度実践により牽引する役割を担う人材を育成します。
- チーム医療において高度な専門性とリーダーシップを備えた作業療法士
- 医療・保健・福祉・行政において幅広い視野から施策計画に携わる作業療法士
- 独創的・科学的視点から研究および臨床の課題に取り組む作業療法士
- 国際社会の中で活躍できる作業療法士
研究の紹介
多くの作業療法では、作業を通して患者さんの脳に働きかけ、その心身の機能を改善させることをします。本講座では、作業が脳にどのように働きかけるかについて、実際に脳活動を記録することによって検索しています。「脳損傷後の機能代償的可塑性」や「睡眠による脳の回復機能」などに着目して、ヒトを対象とした研究ではfMRI、NIRSなどの脳機能イメージング法、経頭蓋磁気刺激法を用いて、動物を対象とした研究では電気生理学的手法やカルシウムイメージング法を用いて検索しています。
児童精神医学、認知神経科学、発達障害学、少年司法精神医学の学術領域においては、健常者・定型発達者と発達症の人を対象に、認知運動機能、自律神経機能、脳画像の研究や、行動学的および質問紙的研究を行っています。具体的には、記憶、注意、対人反応、巧緻運動、ストレス反応、心理特性などを調べています。
作業療法の臨床研究においては、①身体障害・高齢期の作業療法に関する実験的研究や調査研究、認知症・遂行機能障害を有する人や高齢者の生活環境に関する質的研究を行っています。例えば、作業ニーズとストレスコーピング、作業特性と注意・認知機能との関係、生活構造と転倒予防などのテーマを扱っています。次に、②発達期の作業療法で用いる評価方法の開発、小児がんの作業療法に関する研究にも取り組んでいます。手法として、ヒトの日常生活上の動作について三次元動作解析装置を用いて分析したり、重心動揺・視線計測・自律神経指標に基づいて検討したりしています。さらに、③精神認知機能障害のリハビリテーションとその認知システムの理解のために、神経心理学的指標や生理学的指標を用いた量的研究、インタビュー内容から分析する質的研究、認知行動療法的手法による臨床研究を展開しています。
カリキュラムの構成
1~2年次の前期までは、人文・社会科学や自然科学等の全学共通科目を学び、豊かな知性と人間性を育みます。同時期に、専門基礎・臨床科目(生体の基礎・医療の基礎・人間健康科学など)を学び、医療専門職として必要な知識とコミュニケーション能力を身につけます。
2年次後期では、リハビリテーション科学の基礎を学びます。
3年次からは作業療法学の専門である、適応機能の開発・回復を促進する効果的治療・介入実践のために、作業活動の特性を身体・精神・認知機能や発達的視点から理解します。また、対象者の個々の特性や状態・環境条件に合わせて応用する知識・技術を獲得することを目的とし、作業療法学的分析・評価・援助を治療体系として学びます。そして、講義で学んだ内容が、臨床・実践の場でどれだけ効果を発揮するかについて、臨床実習を通して確認します。
さらに、4年次では、発展科目や卒業研究を通し、大学院での研究の基盤となる最先端の医療、作業療法科学を学びます。
進路
2017~2021年度(過去5年間)の学部卒業生の進路状況は、作業療法士として医療・福祉機関へ入職する者が36%でした(円グラフ)。46%の学生は大学院(修士課程)に進学しており、また11%の学生は本講座での学びを活かして一般企業に就職しています。
作業療法士の活躍の場は、進展しつつある長寿社会と疾病の多様化を背景に、あらゆる分野への広がりをみせています。本講座の学部卒業生の多くは、大学院へ進学することが予測され、先端的な他分野と融合しながら、作業療法の研究・高度実践にグローバルな視点から携われる人材として、卒業後の進路先は幅広いものとなっています。表は、先端作業療法学講座の卒業生(大学院修了者を含む)の進路を一部紹介しています。医療、保健・福祉機関のみならず、学校での特別支援教育、行政や健康関連産業におけるリーダーとしての役割も期待されています。
大学・研究機関 |
国立・公立・私立大学法人での作業療法の教員・研究員 京都大学/ 国際医療福祉大学/ 関西医科大学/ 藍野大学/森ノ宮医療大学/ |
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医療/福祉機関 |
大学病院 京都大学医学部附属病院/ 京都府立医科大学附属病院/名古屋大学医学部附属病院/ 千葉大学医学部附属病院 他 身体障害領域 大阪国際がんセンター/ 滋賀県立総合病院/ 天理よろづ相談所病院 精神障害領域 大阪府立精神医療センター/ 岡山県精神科医療センター/ 宇治おうばく病院/ 発達期領域 愛知県医療療育総合センター/ 寝屋川市立あかつき・ひばり園/ 高齢期領域 介護老人保健施設 あじさいガーデン伏見 他 |
その他 |
海外の研究機関での研究および臨床(留学) 南カリフォルニア大学/ Fall River Health Service (米国サウスダコタ州) 他 ヘルスケア産業・特別支援教育 アシックスJapan/ 亀岡市立亀岡小学校 他 一般企業 医学書院/ SGホールディングス/ 日本メジフィジックス/ 田辺三菱製薬/ 帝人 |
資格
本講座の学部卒業者(卒業見込者)には、作業療法士国家試験受験資格が与えられます。この国家試験に合格すると作業療法士の資格を得ることができます。
京都大学の先端作業療法学講座は、世界作業療法士連盟 (World Federation of Occupational Therapists; WFOT) の教育水準を満たしており、認定を受けています。