【リレーエッセイ】世界的ピアニスト マルタ・アルゲリッチと京大女史(医学専攻早期医療開発学 中島 貴子 教授)

お知らせ

5月26日。平日、しかも忙しない月曜日の18時、私はそそくさと院内履きからヒールに履き替え、教授室を後にした。アルゼンチンが生んだ世界的ピアニスト、マルタ・アルゲリッチさんのリサイタルがなんと京都南座で開催されたのだ。

もともとクラシックは好きではあったがそれほど詳しくもなかった(今も)。私に「本物を聴きなさい」と教えてくれたのは、国立がん研究センターで働いていた頃のレジデント仲間のY先生だ。彼女は別府の名家の生まれで、幼少期から真の情操教育を受けていると見受けられた(ご本人はそのようなことは一切言わないが)。

マルタ・アルゲリッチさんについても、名前は聞いたことがあるなあぐらいであったが、演奏を聴くようになったのはY先生に教えてもらってからだ。1995年に別府で約10年ぶりのソロ・リサイタルが開かれ、その後「別府アルゲリッチ音楽祭」の総監督をアルゲリッチさんが務めることとなり、奔放で有名であった彼女がなんとその後は毎年別府を訪れ、日本、世界の音楽家の育成に力を注いでいるということであった。生で聴いてみたい、、、とは思っていたが、忙しさにかまけてコンサートの開催情報を見ることもない日々が続き、別府音楽祭のDVDを買ってただその音色に憧れを募らせていた。

そしてこの度、Y先生から「南座のリサイタルに行きなさい」との指令がきた。一も二もなくチケットを手配し、昔からの友人とともに出向いたわけだ(夫と子供は留守番)。

夢の時間とはこういう時間のことですね。ラヴェル「水の戯れ」では、本当に小川が流れその上を音が転がっているかのようで、、、と書き続けたいところだが、私の陳腐な表現力ではアルゲリッチファンに激怒されると思うので演奏についてはここまでとして。演奏後、夢見心地で出口に向かっていたところ、Y先生の母上、妹君も別府からいらっしゃっていて、我々をアルゲリッチさんの楽屋に連れて行ってくれると言う。こんなことがあってよいのか!!!信じられない気持ちで親子の後を追うと、楽屋裏に拝見したことのあるお顔。実はすぐピンときたのです、京大理事の稲垣恭子先生。稲垣先生は昨年アルゲリッチさんを京大百周年時計台記念館にお呼びし「ピノキオコンサート〜大人とこどものための音・学・会(おんがくかい)」を開催した方だったので、強く印象に残っていたのだ(やんごとなき私用があり私は参加できなくて泣きましたが)。

アルゲリッチさんと稲垣先生。近くでお顔を拝見すると、少し話しただけでも伝わってくる芯の強さ、深い思考力、愛情深い包容力、そしてかわいらしさ(生意気とは知りながら)。それぞれの道を追求し、あるところまで行き着いた人に通ずる雰囲気がお二人を包み込んでいた。「本物を聴き、本物に出会った」忘れられない夜であった。

本物の思考回路をさらに享受すべく、後日恐れ多くも理事室を訪れた。稲垣先生とアルゲリッチさんの出会い、稲垣先生のこれまでのご研究内容、現在京大で取り組まれている男女共同参画のお話など、もっとお聞きしたいと思いながらも、先生の雰囲気に甘えて気付けば自分のことばかりべらべら喋っていた。医学研究科の中で自分がどんな仕事をしているか、病院というシステムのこと、我々が治験を実施するセンター:Ki-CONNECTにも課題が山積みであること、でも新薬開発は非常におもしろいこと、アカデミアシーズの開発支援は大変なこと、でもやりがいがあること、日本の中では京大はすばらしいプラットフォームがすでにあること、でも今さらにそれらを発展し有機的に融合させなければ日本は真の置いてけぼりになること、、、など。今後もお時間のあるときに意見交換をしてくださるとおっしゃっていただいた。

京大でのメンターができたことに(勝手に)気持ちは晴れやかになり、病棟への帰り道にあの夜のことを思い出していた。リサイタルでは新進気鋭のチェリスト、ヴァイオリニスト、ヴィオリストも出演していた。アルゲリッチさんと彼らは前日まで別府で音楽活動をしており、京都移動の前夜、Y家は彼らを別府の自宅に招き晩餐会を開いたと聞いた。芸術を愛し、若き芸術家をサポートする、Y家はまさに現代のパトロン。私はY家のように包容力のある人類愛的なサポートまではできないが、アカデミア研究者、スタートアップに対してできる限りの専門的サポートはしていきたい。でも自分も研究者であるから、どちらかというと、自らも印象派画家であり印象派展を支えたバジールやカイユボットといったところかな(いずれも実家の経済力がすごかったようだから、この例えも自分には合わないか)。

京大の研究者の皆様、新薬開発でお困りのことがありましたらいつでもご連絡ください!

URL:
京都大学大学院医学研究科医学専攻早期医療開発学
https://www.med.kyoto-u.ac.jp/research/field/doctoral_course/r-194
京都大学医学部附属病院先端医療研究開発機構次世代医療・iPS細胞治療センター(Ki-CONNECT)

https://earlyclinical.kuhp.kyoto-u.ac.jp/



写真:稲垣恭子先生と思い出のリサイタルパンフを持って
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