幹細胞遺伝学医学・医科学専攻

教授 遊佐 宏介

生命現象には様々な遺伝子が関わっているが、生物学の命題はこれら遺伝子を同定し、その分子機能を明らかにすることであり、この理解を通して医療を始め様々な分野への応用が可能となる。当研究室では網羅的遺伝子探索法としてゲノム編集技術を応用したCRISPRスクリーニング法を開発し、発表した。現在、このスクリーニング法を用いて、特に2つの研究領域(がんと多能性幹細胞)に焦点を当て、細胞増殖や細胞分化に関わる分子機構解明、創薬への応用に取り組んでいる。

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研究・教育について

遺伝学では表現型と遺伝型の因果関係を調べ遺伝子の機能を理解する。着目遺伝子の変異体の表現型を解析する逆遺伝学がよく用いられるが、着目表現型に関わる遺伝子を同定する順遺伝学のほ乳類細胞への応用は遅れ、2000年以降、我々が開発したLOH誘導法(業績5)やRNAiが開発されて以降であった。より高効率な手法が求められ、我々はCRISPR-Cas9システムを応用して網羅的遺伝子探索法 – CRISPRスクリーニング– を開発するに至り(業績2)、現在、様々な分野で応用されている。
我々の研究室でその応用に着目したのががんと多能性幹細胞であり、細胞増殖や細胞分化に関わる遺伝子のCRSIPRスクリーニングを用いた網羅的同定、さらに詳細な分子機構の解析を実施している。特にがん細胞の増殖に関しては、234細胞株を用いた大規模スクリーニングを実施し、増殖必須遺伝子プロファイルを得た(業績1)。ここから創薬に結びつく有用な遺伝子を抽出し、解析を進めている。また、多能性幹細胞についてはヒトES細胞、iPS細胞を用いて株間で異なる分化効率の理解、より効率的な分化法の開発を目指し研究を進めている。

図1. CRISPRスクリーニングの応用法
まず、レンチウイルスを用いてgRNAライブラリーをCas9を発現する細胞に導入し、変異細胞ライブラリーを作製する。続いて、着目した表現型に応じてスクリーニングを行い、次世代シーケンサーによる集団中のgRNA頻度の定量、そして統計解析を経て、ヒット遺伝子を同定する。表現型によって最も適切なスクリーニング方法を選ぶ。

図2. 様々な大腸ガン細胞株
それぞれの細胞株は異なる形態、性質を示す。CRISPRスクリーニングによって明らかとなった増殖必須遺伝子より、マイクロサテライト不安定性を示す細胞株の増殖にWRN遺伝子が必要であることが明らかとなった。

研究業績

  1. Behan FM, Iorio F, Picco G, Goncalves E, Beaver CM, Migliardi G, Santos R, Rao Y, Sassi F, Pinnelli M, Ansari R, Harper S, Jackson DA, McRae R, Pooley R, Wilkinson P, Meer D, Dow D, Buser-Doepner C, Bertotti A, Trusolino L, Stronach EA, Saez-Rodriguez J, Yusa K, Garnett MJ. Prioritisation of oncology therapeutic targets using CRISPR-Cas9 screening. Nature 568:511-516 (2019)
  2. Koike-Yusa H, Li Y, Tan EP, Velasco-Herrera MD, Yusa K. Genome-wide recessive genetic screening in mammalian cells with a lentiviral CRISPR-guide RNA library. Nature Biotechnol. 32:267-273 (2014)
  3. Yusa K, Rashid ST, Strick-Marchand H, Varela I, Liu PQ, Paschon DE, Miranda E, Ordóñez A, Hannan NR, Rouhani FJ, Darche S, Alexander G, Marciniak SJ, Fusaki N, Hasegawa M, Holmes MC, Di Santo JP, Lomas DA, Bradley A, Vallier L. Targeted gene correction of a1-antitrypsin deficiency in induced pluripotent stem cells. Nature 478: 391-394 (2011)
  4. Yusa K, Zhou L, Li MA, Bradley A, Craig NL. 2011. A hyperactive piggyBac transposase for mammalian applications. Proc. Natl. Acid. Sci. USA 108: 1531-1536 (2011)
  5. Yusa K, Horie K, Kondoh G, Kouno M, Maeda Y, Kinoshita T, Takeda J. Genome-wide phenotype analysis in ES cells by regulated disruption of the Bloom’s syndrome gene. Nature 429: 896-899 (2004)

研究室

教授 遊佐 宏介
助教 樽本 雄介
助教 西淵 剛平
助教 青木 一成
TEL 075-751-4100
Email: k.yusa@infront.kyoto-u.ac.jp

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