統合生体プロセス分野医学・医科学専攻

教授 近藤 玄

当研究分野は、ウイルス・再生医科学研究所に所属し、SPFマウス作出の基盤となる「受精機構の分子メカニズム解明」を中心に研究を進めています。マウスの精子は、精巣で産生された直後には受精能はなく、卵子にたどりつくまでにさまざまな分子修飾をうけます。我々はこの分子機構を、分子レベルから生体レベルに至る様々な手法を駆使して、その全容を明らかにしたいと考えています。さらに新しい研究テーマとして、生体防御や炎症反応、生体恒常性維持に関わる免疫細胞に焦点を絞り、分化・機能因子および調節機構についても研究を進めています。

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研究・教育について

当研究分野では、これまで、哺乳動物におけるグリコシルフォスファチジルイノシトール (GPI) アンカー型タンパク質 (GPI-AP) の精子の成熟過程における遊離メカニズムについて研究を進め、アンギオテンシン変換酵素 (ACE) にGPI-APを遊離する活性があり受精に重要な役割があることを見出しました(文献5)。また、精子の受精能獲得過程において、ラフトの局在変化、GPI-APの遊離、Izumo1タンパク質の局在変化が連動しておこり、これらが受精能獲得に必須であり(文献4)、さらにこれを誘導する因子のひとつとしてLipocaline2を見出しました(文献1)大学院生には、受精の分子機構やGPI-AP遊離の生理的意義の解明に関する研究を共同でおこなっていくとともに、希望に応じて遺伝子改変マウス作出技術を指導します。もう一つの研究テーマは、近年新しいTヘルパー細胞として同定された炎症性Th17細胞の機能と制御因子について解析を進めるとともに、様々な自己免疫疾患モデルを用いて炎症の新しい免疫学的機序について研究を進めています(文献2,3)。また、受精メカニズムと細胞免疫学を融合した学際的研究テーマについても研究展開を計っています。

1 精子成熟にともなう精子膜反応。精子は精巣で産生された直後には受精能はないが、雄や雌の生殖路内を通過する間に様々な分子修飾を受けて、受精能を獲得する。これまでの研究で、我々は、精子成熟と相関して、1.初期過程であるキャパシテーションにともなってラフトの局在変化がおこる、2.終期過程である先体反応にともなってGPIアンカー型タンパク質遊離およびIzumo1の局在変化がおこる、ことを見出し、この一連の反応を精子膜反応(sperm membrane reaction)と呼んでいる。

2 雌生殖器における精子膜反応と受精能獲得。精子膜反応は、子宮内ではほとんどおこらないが、卵管内遊走精子の約40%、卵丘細胞層侵入精子の約70%、そして透明帯接着精子のすべてでおこっていることを観察した。すなわち精子膜反応は、雌生殖路の各所で階層的に起こり、精子の受精能獲得に必須であることを示した。現在、我々は、この反応が飛躍的に誘導される卵管内環境に注目し、これを引き起こす卵管内因子(仮称SMF-F)の同定を試みている。

研究業績

  1. Watanabe, H., Takeo, H. Tojo, K. Sakoh, T. Berger, N. Nakagata, T. W. Mak, and G. Kondoh. Lipocalin2 binds to membrane phosphatidylethanolamine to induce lipid raft movement in a PKA-dependent manner and modulates sperm maturation. Development, 141, 2157-2164 (2014).
  2. Hirota, K., E. Turner, M. Villa, J. H. Duarte, J. Demengeot, O. M. Steinmetz, and B. Stockinger. Plasticity of TH17 cells in Peyer’s patches is responsible for the induction of T cell-dependent IgA responses. Nat. Immunol., 4, 372-379 (2013).
  3. Hirota, K., H. Duarte, M. Veldhoen, E. Hornsby, Y. Li, D. J. Cua, H. Ahlfors, C. Wilhelm, M. Tolaini, U. Menzel, A. Garefalaki, A. J. Potocnik, and B. Stockinger. Fate mapping of IL-17-producing T cells in inflammatory responses. Nat. Immunol., 12, 255-263 (2011).
  4. Watanabe, H., and G. Kondoh: Mouse sperm undergo GPI-anchored protein release associated with lipid raft reorganization and acrosome reaction to acquire fertility. J. Cell Sci., 124-15, 2573-2581 (2011).
  5. Kondoh, G., Tojo, Y. Nakatani, N. Komazawa, C. Murata, K. Yamagata, Y. Maeda, T. Kinoshita, M. Okabe, R. Taguchi and J. Takeda: Angiotensin-converting enzyme is a GPI-anchored protein releasing factor crucial for fertilization. Nat. Med., 11, 160-166 (2005).

研究室

教授:近藤 玄
准教授:廣田 圭司
助教:渡邊 仁美

TEL: 075-751-4860
FAX: 075-751-4860
Email:kondohg@infront.kyoto-u.ac.jp
URL: http://an02-kaihen-anim.frontier.kyoto-u.ac.jp/

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