教授 河本 宏
造血においては多能造血幹細胞から順次分化能が限定されていき、いろいろの系列の単能前駆細胞が生成する。我々の研究室が目標としていることは,この分化能限定過程において,前駆細胞の運命を振り分ける分子機構を解析することである。造血過程の全体を研究対象としているが,中でもT細胞に至る過程に比重を置いて研究を進めている。また、再生免疫細胞を用いたがんの免疫細胞療法の開発にも取り組んでいる。
研究・教育について
我々は研究成果に基づいて新しい造血モデルとして「ミエロイド基本型モデル」を提唱してきた。多くの教科書で使われてきたモデルでは、造血幹細胞からの最初の分岐で「エリスロイド-ミエロイド細胞」系と「T細胞-B細胞」系に分かれるとされてきた。一方我々が提唱するモデルでは、エリスロイド、T細胞、B細胞への分化に向かう経路において,ミエロイド細胞への分化能を保持するとしている(図1)。
このモデルに基づいて造血幹細胞からT前駆細胞へ至る過程をみると、まずエリスロイド、次にB細胞、最後にミエロイド細胞への分化能を失うということになる。こうした段階的分化能喪失過程の分子機構を、転写因子ネットワーク形成と染色体修飾等のエピジェネティックな制御という観点から解明する事を目指している。アプローチとしては、分化の強制停止/分化再開を誘導する方法を用いている。
一方、細胞分化誘導の培養技術をいかして、再生医療的なアプローチも行っている。最近、iPS細胞を用いることにより、がん抗原特異的T細胞を再生することに成功した(図2)。現在、この方法の臨床応用を目指して研究を進めている。
研究業績
- Nagahata Y, Masuda K, Nishimura Y, Ikawa T, Kawaoka S, Kitawaki T, Nannya Y, Ogawa S, Suga H, Satou Y, Takaori-Kondo A, Kawamoto H. Tracing the evolutionary history of blood cells to the unicellular ancestor of animals. Blood. 140(24):2611-2625. 2022.
- Kashima S, Maeda T, Masuda K, Nagano S, Inoue T, Takeda M, Kono Y, Kobayashi T, Saito S, Higuchi T, Ichise H, Kobayashi Y, Iwaisako K, Terada K, Agata Y, Numakura K, Saito M, Narita S, Yasukawa M, Ogawa O, Habuchi T, Kawamoto H. Cytotoxic T Lymphocytes Regenerated from iPS Cells Have Therapeutic Efficacy in a Patient-Derived Xenograft Solid Tumor Model. iScience. 23(4):100998. 2020.
- Vizcardo R, Masuda K, Yamada D, Ikawa T, Shimizu K, Fujii S-I, Koseki H, Kawamoto H. Regeneration of human tumor antigen-specific T cells from iPS cells derived from mature CD8+ T cells. Cell Stem Cell, 12: 31-36, 2013.
- Ikawa, T, S Hirose, K Masuda, K Kakugawa, R Satoh, A Shibano-Satoh, R Kominami, Y Katsura, Kawamoto H. An essential developmental checkpoint for production of the T cell lineage. Science. 329: 93-96, 2010.
- Wada H, Masuda K, Satoh R, Kakugawa K, Ikawa, T, Katsura Y, Kawamoto H. Adult T cell progenitors retain myeloid potential. Nature, 452: 768-772, 2008.
研究室
教授 河本 宏
准教授 宮崎 正輝
助教 永野 誠治
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FAX 075-751-3839
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