斎藤通紀教授が第31回大阪科学賞を受賞しました。

受賞

斎藤通紀教授は、平成7年京都大学医学部を卒業、平成11年同大学大学院医学研究科博士課程を修了し、同年医学博士の学位を授与された。英ケンブリッジ大学ウェルカムトラスト/英国癌研究基金ガードン研究所Travelling Research Fellow、同研究所Senior Research Associate、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター チームリーダーを経て、平成21年京都大学大学院医学研究科教授に就任し、機能微細形態学講座を担当されている。


大阪科学賞は、創造的科学技術の振興を図り、21世紀の新たな発明と明日の人類社会に貢献することを目的とし、学術上顕著な業績を上げた者、または画期的な新技術の開発をした者で、上記業績または重要な発見・発明の主要なものが大阪を中心とした地域で行われたものに授与される。


同教授の受賞研究テーマは、「生殖細胞の発生機構の解明とその試験管内再構成」。


同教授は、単一細胞発現遺伝子プロファイリング法を用いて、始原生殖細胞特異的に発現する遺伝子群を同定、BLIMP1が始原生殖細胞の起源となる少数の細胞群で発現を開始し、その形成に必須な転写制御因子あることを証明した。さらに、単一細胞マイクロアレイ法を開発、この方法を用いて、生殖細胞形成過程を規定する遺伝子発現の全容を解明、BLIMP1が、周囲の体細胞と比較し始原生殖細胞にて抑制されるほぼ全ての遺伝子の抑制に必須であることを証明した。


同教授は、生殖系列特異的発現を示す第2の転写制御因子PRDM14を同定、PRDM14が始原生殖細胞における潜在的多能性再獲得及びエピゲノムリプログラミングに必須であることを証明し、生殖細胞の形成過程は、体細胞化の抑制・潜在的多能性の再獲得・エピゲノムリプログラミングを包含する高度に統御された生命現象であるという概念を提唱した。


斎藤先生 図


同教授は、これら研究に基づき、サイトカインによる生殖細胞誘導機構を解明、その成果に基づいて、マウス胚性幹細胞(embryonic stem cells: ESCs)や人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells: iPSCs)を胚体外胚葉様細胞 (epiblast-like cells: EpiLCs) へ誘導し、次に EpiLCsから始原生殖細胞様細胞(primordial germ cell-like cells: PGCLCs)を誘導することに成功した。誘導したPGCLCsは、不妊新生仔マウス精巣に移植すると精子形成を起こし、形成された精子は、顕微授精により健常な子孫に貢献した。また、メスPGCLCsと胎児卵巣体細胞の凝集培養塊(再構成卵巣)を作成すると、その中でPGCLCsは減数分裂を開始し卵子様細胞に分化した。再構成卵巣をマウス卵巣被膜下に移植すると、PGCLCsは成熟卵子に分化し、それら卵子は、単離後、試験管内受精することで健常なマウスに寄与した(図)。


これらの成果により、生殖細胞の発生過程を試験管内で再現出来ることが証明された。本研究は、生体に存在する少量の細胞で研究せざるを得なかった生殖細胞の発生機構を、試験管内で誘導した大量の細胞を用いて遂行することを可能とするもので、この成果を基盤とした研究の発展が期待される。ヒトへの応用には様々な技術的問題や倫理的問題を乗り越える必要があるが、不妊の原因究明やそれに基づく治療法開発、細胞のエピゲノム状態を制御し医療に応用する技術開発などの可能性を開き、その観点からも特筆すべき成果である。


なお、本賞授賞式は平成25年11月1日(金)に行われる予定。


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