【リレーエッセイ】サウナ VS 銭湯 ~研究者生活のだいご味?~(社会健康医学系専攻予防医療学 石見 拓 教授)

お知らせ

私はかなりの温泉好きである。学生時代を群馬で過ごしたこともあり、たびたび温泉旅行を楽しみ、温泉に行くとゆうに2時間は入浴を楽しむ。特に、ぬるめの露天風呂が好きで、イチオシは群馬県伊香保温泉の一番上にある公共の大露天風呂だ。熱めと温めの2種類の露天風呂があるのみでシャワーもない、昔ながらのシンプルな公衆浴場だが、温めの湯に長時間浸かり、友人と会話をしながら「ぼーっ」とするのが好きだった。私が学生だった時代には、発泡スチロールにおでんや缶ビールを浮かせて一杯やりながら入浴することも出来たのが懐かしい。

そんな感じでもともと、『自然を楽しむ露天風呂、ぬるめの湯』派で、あまりサウナには関心がなかった。それが、年を重ねると共に味覚が変わるのと同様に?、40歳を超えたあたりから、サウナも好きになってきた。お風呂はぬるめ派だが、温泉で鍛えていたせいか、意外と熱いサウナでも苦痛ではなかった。サウナブームが訪れ、人気芸人がテレビでサウナのお作法を説明しているのを見た。熱いサウナに入った後、キンキンに冷えた水風呂に浸かり、そのあとで『整う』。そのコツは水風呂後にしっかりと体を拭くことらしい。世の中のはやりに乗るのが嫌いなたちなので、またそれらしいことを言って・・・などと思いつつ、試してみた。すると、必ずしも水風呂はキンキンに冷えていなくても良いのだが、確かに、体を拭いてから休むと、何とも言えず心地よく、『整う』感じがして、少し悔しかったが、なるほどと納得してしまった。

そんなこんなで徐々にサウナ好きになってきたのだが、決定打は専門にしている心臓突然死対策に関わる研究会でヘルシンキに行った際に入った本場の公衆サウナでの経験だった。まず、感動したのが、いわゆるロウリュウと呼ばれるフィンランド式のストーブの上で熱く熱せられた石に水をかけるタイプの楽しみ方だ。それまでドライサウナとこのロウリュウ式サウナの違いも知らなかったのだが、ロウリュウ式では熱く焼けた石に水をかけることで水蒸気を発生させて一気に部屋の温度・湿度を上昇させる。湿度だけでなく、温度も上がり、体感温度は一気に上がる。日本の多くのサウナのように温度が機械で設定されているのではなく、温度・湿度を自分で自由にコントロールできるという感覚が楽しかった。宿泊したホテルのサウナもロウリュウ式で自分が入った際にはしばらく人がいなかったのか寒いくらいの温度で、自分でせっせと水をかけて温度と湿度を上げていく必要があったが、自分好みにコントロールする楽しみがあった。

そして、 何よりも、そのヘルシンキでも歴史ある公衆サウナは、ちょい悪風のおじさんたちのたまり場になっており、社交場としてのサウナの魅力に感じ入ってしまった。サウナ室に入る前に、素っ裸で行くべきなのか、タオルを持参すべきなのか、悩んでいるとおじさんがタオルなんて持ち込んじゃいかん、素っ裸ではいるものだと教えてくれた。サウナ室の扉を開けると、詰め込めば50人近くは入れるのではないかという大きな階段状の暗い空間だった。上の方へ階段を昇ると体感温度がぐんぐん上がるのを感じる。最上段のすみっこ、一番温度が高い場所にはベテランのおじさんたちが鎮座している。誰かが、サウナ室から出ていくたびにそのおじさんたちが水をかけてくれと指示をする⇒その指示のもと、大きなひしゃくで巨大な薪ストーブに水をかける⇒おじさんたちから「キートス(ありがとう)!」と一声⇒ものすごい熱波が押し寄せる⇒どうだ、にいちゃん、この熱さ耐えられるか?俺たちは全然へっちゃらだ。という顔でニヤッとする。こんな一連のやり取りが繰り返されていた。サウナで温まったら建物の外の道端でタバコとウォッカを片手に飲んでいるおじさんがいて、どうだにいちゃん、ウォッカ飲んでみるか?と誘ってくれた。いやいやウォッカ飲みながらこんなに熱いサウナに入るなんて。。。何とも言えない、異文化コミュニケーションを体験することが出来た。おじさんたちは決して英語も上手ではないが、どんどん話しかけてきてくれてお互いにつたない英語で会話を交わす。そうすると、最近はこうした公衆サウナはほとんどなくなっちまった。みんな、家にプライベートサウナがあるからな。でも、おれはこっちの方が好きだ(勝手な意訳)。と。この公衆サウナの感覚は、日本の銭湯と全く同じだと思った。裸の付き合い、地元のおじさんたちがルールを教えてくれたり、世間話をしたり。今やすべての家に風呂があるのが当たり前になり、街中の銭湯が急速に減ってきたのも全く同じだ。

このような異文化体験、趣味が意外と研究に繋がってくるのが研究生活のだいご味でもある。私は現在、PHR(パーソナルヘルスレコード)を活用して本人が主体となって健康・医療データを活用して健康増進、病気の予防や管理ができる社会を目指した研究に力を入れているが、予防医療にはどのように健康無関心層に関心を持ってもらうのか?デジタルデバイドをどう克服するか?といった課題がある。超高齢社会、世帯の多くが一人暮らしという変化の中での社会的な孤立という大きな社会課題もある。一つのアイデアとして、銭湯やサウナを街の健康ステーションにするという構想を持っていたのだが、本場のサウナを体験して以来、趣味としてサウナ道?を深めつつ、この貴重な社交の場、タッチポイントをPHR活用の入り口にして健康づくりに活かせないかと本格的に思案している。ちょうど、京都の銭湯文化を守ることを目的として京大銭湯サークルが活動しているというニュースを見て、彼らに研究会に来てもらい、活動を紹介してもらった。その中で、京都の銭湯の多くは地下水をくみ上げており、良質な水が豊富なこともあって多くの銭湯がサウナを併設し、なおかつ安いので、ぜひ楽しんで、この文化を守るべきと言われ、さっそく百万遍の東山湯に連れて行ってもらった。確かに、銭湯もサウナも、そして地下水をくみ上げた水風呂も最高で、歩いて行ける範囲にこんなに素晴らしい銭湯・公衆サウナがある環境は、京大/京都の魅力の一つだと認識を新たにした。

京都発で、PHRを活用した健康増進文化をどうやって発信していくか?たまに、研究者として考えたりしながら、本場のサウナと京都の銭湯を満喫している。


URL:
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻予防医療学分野

https://www.med.kyoto-u.ac.jp/research/field/doctoral_course/r-151
https://sph.med.kyoto-u.ac.jp/field/class-13/
https://yobou.med.kyoto-u.ac.jp/

写真1
ヘルシンキの公衆サウナ。温まった後は道端で整う。住民が行きかう街中の道路脇の光景。


写真2
さらに上級編?町はずれにある手作りのサウナ小屋。薪が足りなくなったら自分たちで薪割をして補充する完全セルフ式。
温まったら目の前のキンキンに冷えたバルト海へ。

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