井上 浩輔 教授(健康増進・行動学分野)が着任しました

お知らせ

 2025年8月1日付で、京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野の教授を務めることになりました井上浩輔と申します。着任にあたり、ご挨拶申し上げます。

 私は2013年に東京大学医学部を卒業後、国立国際医療研究センターにて初期臨床研修を行いました。研修後は、横浜労災病院 内分泌・糖尿病センターにて、西川哲男先生のご指導のもと、原発性アルドステロン症を中心とした内分泌代謝疾患の診療に従事いたしました。臨床の現場では多くのことを学びましたが、日々の診療を通じてエビデンスを読み解く力・創出する力を養いたいとの想いを強く抱くようになり、公衆衛生・疫学の道に進む決意をいたしました。その後、2017年から2021年にかけて米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の公衆衛生大学院に所属し、Beate Ritz先生・Onyebuchi A. Arah先生のご指導のもと、「因果推論」という、データから原因と結果を紐解く学問の理論と疫学応用を中心に研究を進めました。当初は2年間の修士課程修了を目指しておりましたが、次第にこの学問の奥深さに惹かれたため博士課程に進学し、留学当初からのメンターである津川友介先生にもご指導いただきながら、疫学者としての専門性をさらに高める道を選びました。

 帰国後の2021年から京都大学大学院医学研究科 社会疫学分野に助教として着任し、近藤尚己先生のご指導のもと、健康の社会的決定要因に着目した疫学研究を進めてきました。在任中は研究のみならず、教室運営、教育活動に幅広く携わる機会をいただき、多くの学びを得ることができました。また、稲垣暢也先生・矢部大介先生のご高配により、糖尿病・内分泌・栄養内科学での外来診療にも携わり、臨床医としての実践感覚を維持してきました。2023年4月からは白眉センターにて特定准教授を務め、2024年7月からは日本学術振興会の国際共同研究強化事業の支援を受け、ハーバード大学およびベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター(BIDMC)で1年間の国際共同研究に従事しました。そしてこのたび、ご縁あって再び京都大学に戻り、新たなスタートを切る運びとなりました。

 これまで私は、臨床医学・基礎医学・社会医学の架け橋となる「Physician-Epidemiologist」として、健康増進に向けたエビデンス創出に貢献したいとの想いで研究を進めてきました。医学や情報科学の急速な進展に伴い、分野ごとの専門性は高まりつつある一方で、異なる専門間の距離が拡大していると感じています。そうした中で、異なる領域をつなぎ、互いの専門性を尊重しながら共創を促進できる研究者の役割は、ますます重要になっていくと考えています。例えば疫学分野では、近年、機械学習を含む先進的な統計手法の開発が進み、大規模データから病態メカニズムの仮説生成や介入効果の個別化が可能となってきています。しかし、研究デザインや結果の解釈を正しく行うためには、臨床医学・基礎医学の知見や視点が不可欠です。今後は、各領域が密接に連携しながら、社会とのつながりも常に意識することで、実践的かつ包括的な公衆衛生学・疫学研究の構築に取り組んでいきたいと考えています。

 具体的な研究としては、因果推論と機械学習の統合的活用により、特に生活習慣病を中心にエビデンスを創出してきました。近年は「効果の異質性」に着目し、従来のリスクに基づく戦略とは一線を画す「高ベネフィットアプローチ」を提唱しました。これは、「誰に介入すべきか」という問いに対し、個人の背景や社会的状況を考慮し、最大限の介入効果が期待できる集団を特定するアプローチです。私は、このアプローチを次世代の個別化予防・医療戦略として展開することを目指しています。あわせて、健康行動理論や行動経済学の知見を取り入れた介入の最適化や、健康格差への対策等の社会実装も推進していきます。また、パンデミックで明らかになったように、ランダム化比較試験の実施が難しいテーマや、緊急性の高い健康課題に対して観察データを活用した迅速なエビデンス創出が求められる場面が数多く存在します。こうした現状を踏まえ、信頼できるエビデンスを導き出すための因果推論を含む疫学方法論の発展にも引き続き取り組んでいく所存です。

 さらには、異分野融合・国際化を加速させることで、本分野の国際的・学際的な認知度を高め、日本の公衆衛生・疫学の発展において一翼を担うことができたらと考えています。2021年に京都大学に着任してからは、L-INSIGHT(名誉教授メンター:中尾一和先生)や白眉プロジェクトを通じて、多様な専門背景を持つ研究者との交流の機会に恵まれ、異分野融合の重要性について身をもって実感してきました。たとえば、上述の「効果の異質性」を評価するモデルの多くはもともと経済学など医学以外の領域から発展したものです。複数の分野の知見を相互に活用することで、これまでにない新たな問いや研究が生まれる可能性を強く感じています。「世界視力」の醸成とネットワークの構築も、今後の公衆衛生・疫学研究において不可欠です。グローバルな研究潮流に目を向けつつ、国内外の研究者・政策決定者・実務家とのコラボレーションを強化させることで、国際的な競争力を有する研究環境の整備と次世代の人材育成に貢献できるよう努めてまいります。

 手がけたいことは多いですが、前任の古川壽亮先生の意思も引き継ぎながら、本分野のさらなる発展と社会全体の健康増進に寄与すべく、真摯に取り組んでまいります。今後とも皆様からのご指導ご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

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