【リレーエッセイ】 再生リハビリテーション(人間健康科学系専攻先端理学療法学講座運動機能解析学 青山 朋樹 教授)

お知らせ

「再生」という言葉は、衰えていたものが生気を取り戻すさまや生まれ変わるさまを表し、「再生」の言葉は目の前の霧が晴れていくような印象を与えます。これに対して「リハビリテーション」のイメージはつらく、苦しいことに耐えるような印象を持ってしまいます。

しかし両者の言葉の由来を調べてみると、「再生Regeneration」は「re:再び+generare:生産する」、「リハビリテーションRehabilitation」は「re:再び+habilis:適合する」とけっこう似た言葉のように見えます。また「再生医療:regenerative medicine」は、「傷害を受けた組織や臓器が有する自己治癒能力を引き出す医療」であり、「リハビリテーション医療:rehabilitation medicine」は、「疾病や外傷で障害された機能を回復し、活動に対する支障を最小化する医療」です。このようにしてみると両者の目指しているものはとても似たものである事に気がつきます。おそらく再生医療で扱われている手法や対象の事象次元が分子や細胞、組織であるのに対して、リハビリテーション医療で扱われている対象がヒトや社会という事象次元の違いが、両者のイメージの距離を広げてしまっているように思えます。

もし、その両者の間の次元の差が取り払われるときには、どちらもさらに素敵なものになるのではないでしょうか。再生医療は組織や臓器の形状や機能の再生に目が向きがちですが、もっと直接的にヒトの幸福に寄与していることが示されれば、再生の持つ言葉の意味はもっと輝きを持つことでしょう。逆にリハビリテーション医療が分子や細胞レベルの次元で機能回復を促すことが示されれば、単に曲がらなくなった膝を曲げようと苦しむ医療ではなく、病理学的治癒を得られる医療といえるかもしれません。

この両者の距離を縮める目的で「再生リハビリテーション:regenerative rehabilitation」という言葉を使っております。とても似た意味ですので二重表現と怒られそうですが、異なる次元の階層を言葉でつなげることで、それぞれの階層の双方向性を生み出せればと考えております。最近の研究ではリハビリテーション医療において用いられる運動療法によって筋肉や骨からサイトカインが放出され、運動器のみならず中枢神経や内臓器にも細胞レベルで良好な影響をもたらすことが明らかになってきました。このことはヒポクラテスが運動療法の効用として挙げていた筋力強化、体力回復、精神力向上の病理学的な効果として説明するものでしょう。

さて、数年前から再生医療で用いられる細胞治療に加えて、移植された細胞の生着能を高め、機能分化を促すリハビリテーション技術を開発しております。それってなにかすごく素敵なことが起こりそうな気がしませんか?

URL:
京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

先端理学療法学講座運動機能解析学
https://humanalysis-square.com/
http://regenerative-rehabilitation.com/jp/



写真:再生医療(左)とリハビリテーション医療(右)


図:再生医療とリハビリテーション医療で対象としている事象

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