矢部 大介 教授(糖尿病・内分泌・栄養内科学分野)が着任しました

お知らせ

 2024年3月1日より、京都大学大学院医学研究科 内科学講座 糖尿病・内分泌・栄養内科学分野の教授を務めることになりました矢部大介と申します。着任にあたりご挨拶申し上げます。

 もともとは建築家アントニ・ガウディのような建築家になり後世に残る建物をつくることを夢見ていましたが、高校生の時にDNAの二重らせん構造を発見したジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックの業績に触れ、ライフサイエンス分野で時代が変わっても色褪せない発見をしたいと考えるようになりました。1992年、京都大学医学部に進学し、がん免疫分野でノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑教授の研究室で分子生物学を学びました。1998年、卒業後直ちにThe University of Texas Southwestern Graduate School of Biomedical Studiesへ進学し、脂質代謝分野でノーベル生理学・医学賞を受賞されたマイケル・S・ブラウン教授とジョセフ・L・ゴールドスタイン教授に師事し、2003年、同大学からPh.D.を取得し、帰国、京都大学医学研究科分子生物学にて助手(現在の助教)として充実した研究生活を送っていました。しかし、医学部時代に叔父と訪れた当時の京都大学総長で内分泌学の専門家である井村裕夫先生から「臨床で研鑽を積んで問題意識を深め、研究に取り組むべし」との助言を受けたことが常に心の片隅にあり、一念発起、臨床に飛び込みました。私の前任の稲垣暢也教授のご高配により、2007年から関西電力病院院長をお勤めであった清野裕教授から糖尿病診療の基礎を学び、その後糖尿病や肥満症、内分泌代謝疾患、栄養に関する診療に従事すると共に、清野裕教授、神戸大学医学研究科分子代謝医学の清野進教授のご指導のもと、糖尿病に関する研究、特に膵β細胞とインクレチンに関する研究に邁進するようになりました。2016年、京都大学医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学にて稲垣暢也教授のもと特定准教授を務め、2018年から岐阜大学医学系研究科内分泌代謝病態学(現在の糖尿病・内分泌代謝内科学)の教授に着任し、5年間教室を主宰してまいりました。そして、この度、縁あって母校である京都大学に戻ってまいりました。

 国際糖尿病連合(IDF)が公表する「糖尿病アトラス第10版」によると、2021年時点で世界の糖尿病人口は約5億3,660万人(有病率10.5%)であり、有効な対策を講じなければ2045年には約7億8,320万人(有病率12.2%)まで増加する見込みです。特に中国(1億490万人)、インド(7,420万人)、パキスタン(3,300万人)が最も多く、日本も9番目(1,100万人)に位置しており、世界の糖尿病人口の半数以上がアジアに集積しています。糖尿病は、体内で糖を効率よく利用するために必要なインスリンという物質が十分につくれない、もしくはインスリンが十分に働かないために発症します。糖尿病は原因の違いにより1型糖尿病、2型糖尿病などに分類され、世界の糖尿病人口の90%以上を2型糖尿病が占めます。2型糖尿病は、インスリンを分泌する膵β細胞の問題(インスリン分泌障害)と肝臓や筋肉などに対してインスリンが十分に働かないという問題(インスリン抵抗性)のために血糖値が上昇します。インスリン分泌障害は遺伝素因と関連が深く、インスリン抵抗性は肥満や過食、運動不足等の環境因子と関連が深いことがわかっています。日本人を含むアジア人は他民族と比較してインスリン分泌能が低いため、過食や運動不足によるインスリン抵抗性が軽度増大するだけで2型糖尿病を発症しまいます。このような背景からアジアで激増する2型糖尿病の発症・重症化阻止には膵β細胞に関する研究が急務です。京都大学は膵β細胞からのインスリン分泌を促進するインクレチンの研究において世界をリードしています。また1型糖尿病治療に向けたiPS細胞由来膵β細胞の移植、膵β細胞量の可視化技術の開発など革新的な研究を進めています。さらにインスリン分泌障害の複雑な遺伝素因解明に向け、単一遺伝子異常により生じる糖尿病の研究も推進しています。これらの研究成果を活かし、糖尿病が治る病気となるよう、国内外の研究機関や企業と連携し、次世代医療の創成を目指したいと考えています。

 糖尿病は、適切な治療と健康的なライフスタイルによって、腎症、網膜症、神経障害といった合併症・併存症の発症や進行を抑制し、長寿を実現できる疾患です。最近では、多様な作用機序を持つ糖尿病治療薬が開発され、糖尿病のある人に対して一人ひとりの病態や社会経済状況に合わせたパーソナライズドメディシンが進んでいます。しかし、糖尿病に対する誤解やスティグマが原因で、日本では4人に1人の糖尿病患者が定期的な医療機関の受診を行っていません。この結果、腎症が進行し、年間約1万6,000人が透析を必要とする状況や、網膜症による失明、神経障害による切断など、患者の生活の質を大きく低下させる事態が発生しています。これらは個人や家族だけでなく、社会全体にとっても重要な課題です。日本では特定健診や特定保健指導を含む糖尿病性腎症重症化予防プログラムが実施されており、未受診や治療中断に対して保健師や管理栄養士が受診勧奨と共に糖尿病教育やサポートを提供しています。また、日本医師会や日本糖尿病学会、日本糖尿病協会を中心にした日本糖尿病対策推進会議が設置され、疾患の啓発や標準治療の普及、医療機関間の連携強化が図られています。私は、国の糖尿病性腎症重症化予防プログラムの策定・検証にも参画してまいりました。また前任地の岐阜県では行政や医師会と協力し、糖尿病対策を推進してきました。これらの経験を活かし、京都大学医学部附属病院ではさらに広範な連携を図り、データサイエンスを用いた健康医療データの分析や、IoT/ICTを活用した診療支援システムの開発に力を入れ、糖尿病に対する包括的な取り組みを推進していきたいと考えています。

 研究と診療の推進には、多様な課題を共に克服できる力強いチームの構築が欠かせません。学部教育および卒後教育を通して、研修医や学部学生のみなさんに、糖尿病や肥満症、内分泌代謝疾患、栄養に関する研究と診療の魅力を伝え、ひとりでも多くが仲間に加わってもらいたく思います。強いチーム作りには若い教室員の独立性を担保することが大切で、これまでもカンファレンスやジャーナルクラブを通して、若い教室員も自由に考えを述べ、積極的に意見交換できる雰囲気づくりに注力してきました。また、若手には早期から国際的な視野を持ち、科学的思考を養ってもらうため、国際会議への参加や論文発表を全面的に支援してきました。さらに、最新の研究成果を取り入れるために、国内外の有名な医師や研究者を招いて定期的に研究会やセミナーを開催し、教育関連施設とも緊密に連携をとってまいりました。女性医師をはじめ多様な人材が、やりがいを感じながら、臨床、研究で活躍できる環境整備につとめたいと考えています。母校である京都大学医学部および京都大学医学部附属病院に、新たな気持ちで全力を尽くし、貢献ができるよう努めてまいります。ご支援とご指導を心よりお願い申し上げます。

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