ケーキの後のお楽しみは、買い物好きの母が近所のバーゲンや旅行先で買い溜めた手ぬぐいやキッチン用品、玩具といった”景品“を取り合うビンゴ大会をするのが恒例だ。ところが、今年はビンゴ大会がなかった。コロナのせいで母の“買い出し”旅行が滞っていたのが一因だ。
ぽっかり空いた時間をどうしようかと考えた。そこで、「人生会議」をやってみよう、と提案してみた。人生会議とは、人生の終末期の過ごし方や治療との向き合い方について元気なうちに計画しておくというもの。医療の領域で「アドバンスド・ケア・プランニング(ACP)」として普及が進められている。両親も高齢になり、近いうちにやりたいと思いタイミングを探していたのだ。
知人の医師らが考案した「みんらぼカード」というものを使った。「がんで余命3ヶ月と宣告された」という想定で、その後にやりたいことや大切にしたいことについてワイワイと話し合うという「人生会議ゲーム」だ。トランプに「旅行に出かけたい」「遺書を書きたい」「望んだケアを受けたい」といったことが書かれている。場に出したこれらのカードと手持ちの5枚のカードとを交換しながら、それぞれの「人生のしまいかた」のイメージをつくっていく。
予想以上に盛り上がり、結果も興味深いものだった。「いろんな最後の生き方があるなあ!」と思わず声をあげた。印象としては「やりつくしたい派」「つながり大切派」「人生を締めくくりたい派」などの分類ができそうに思った。子どもたちには「やりつくしたい派」が目立った。「やりたかったことに挑戦したい」「好きなものを食べたい」といったカードを多く選ぶのである。まだまだたくさん経験したいのに!という無念が見えるようで、自分の選んだカードの説明をする姪っ子甥っ子たちの言葉に胸が詰まった。
家庭ごとの傾向もありそうだ。明るい妹一家は「笑い」がキーワード。「ユーモアを大切にしたい」「最後に周りの人に笑ってもらいたい」と、残される人々へのサービス精神を忘れない一家のようだ。姉一家は「親しい人とハグしたい」「大切な人に別れの挨拶をしたい」など、親密なつながりの中での最期を望む「つながり大切派」が目立った。ちなみに我が家は「遺書を書きたい」「やり残した仕事に取り掛かりたい」などのカードが多い「人生を締めくくりたい派」が多かった。
皆がノリノリで参加してくれたこともうれしい驚きだった。正月に医療者が辛気臭い話を持ちかけるのはいかがなものかな、と始める前は少なからず懸念したのだが、全く杞憂だった。さすがに子どもには難しいのではないかと思い、1ラウンド目は大人だけでやったのだが、途中で小学生の甥が「僕もやる!」といいだしたので、2ラウンド目で参加してもらった。甥っ子も十分楽しんで参加してくれ、最後には彼なりの人生のしまいかたを語ってくれた。
「死を見つめることは生き方を見つめること」と言われるが、それを実感した正月だった。死は、共感や思いやりが取り巻くイベントだ。誰もが望む最後を迎えられる社会の仕組みをつくることは、私の専門であるパブリックヘルス、つまり「健康で幸福な社会づくり」を目指す研究開発にとっても大変重要なトピックだ。これを進めるためにも、まずは僕らみんなが人生のしまいかたをイメージして、互いへの思いやりの心をはぐくんでいくことがはじめの一歩なのだろう。…と言いつつ、自分自身もよく考えたことのないことだったので、大変よい機会になった。
というわけで、正月に家族とやってみる「人生会議」、おすすめです!
写真:私が選んだ5つのカード。最後はこんなふうに生活したいので皆様お願いします。
2024年1月
近藤尚己
社会健康医学系専攻社会疫学分野教授
URL:
京都大学研究教育活動データベース
https://kdb.iimc.kyoto-u.ac.jp/profile/ja.908948c9b2467407.html#display-items_basic-information
研究室ウェブサイト
https://socepi.med.kyoto-u.ac.jp/
社会健康医学系専攻内ウェブサイト
https://sph.med.kyoto-u.ac.jp/field/class-14-2/