西谷 陽子 教授(法医学)が着任しました

お知らせ

 2023年10月1日より京都大学大学院医学研究科法医学講座教授に着任した西谷陽子と申します。着任にあたってご挨拶申し上げます。 私は、1998年に京都大学医学部医学科を卒業し、その後すぐに京都大学大学院医学研究科博士課程へ進学いたしました。故福井有公先生のもとで大学院生として法医学を学びました。その後、2002年4月からは札幌医科大学医学部法医学講座にて松本博志先生(現大阪大学教授)の元で助教、講師と法医学の研鑽を行い、2009年10月より熊本大学大学院生命科学研究部法医学講座教授に着任しました。熊本大学にて14年間講座を運営してきましたが、このたび、母校である京都大学に戻ってまいりました。

 法医学領域はドラマではよく出てくるのでご存じの方も多くおられると思いますが、法医学はその名の通り「法」と「医学」をつなぐ学問分野であり、法的に問題のある医学的事項の解決に寄与しております。ミッションとしては、死因の究明とその予防、損傷を含む生体鑑定、医事法制、個人識別・親子鑑定などが挙げられます。特に死因究明とその予防のための法医病理学は法医学の大きな仕事になります。少子高齢化と言われて久しく、最近では多死社会という言葉もよく取り上げられるようになりました。日本における死亡数は大きく変わっております。33年前の1990年の死亡数は82万人でしたが、その後増加の一途をたどり、2005年には108万人で初めて出生数を超え、昨年2022年の死亡数は157万人に達しております。2022年の出生数が77万人であり死亡数はその倍の人数になっているのですが、そのことは意外と認識されておりません。亡くなられた方のうち約1割強の方は、外傷や中毒などの外因で死亡、亡くなっているところを発見、予期しない突然の死亡、死因不明などの医師法21条における『異状死』として警察に届けられています。法医学では法医病理学として事件・事故の解明や死因究明のために解剖や各種検査を行っております。

 法医学の研究領域はとても広いです。医学的な側面から見ても、死因究明に関わる臓器・組織は全身であり、さまざまな診療科が関与する疾患も取り扱います。対象となる年齢も乳幼児から高齢者まで幅広いです。さらに死因究明以外にも、医事法制や個人識別まで法医学領域でカバーしております。交通事故や虐待などの社会問題も関わってきます。一人の研究者がそのすべてをカバーすることは不可能ですので、多くの法医学者はその中で専門性を持っています。わたしはこれまでにアルコールや薬物に関わる研究を行ってきました。法医実務において飲酒した事例は多く、アルコールが死因に影響を及ぼすことがあることから、その基礎研究として、アルコールによる細胞障害および肝臓障害での細胞内情報伝達系変化ついての研究を行いました。薬物機器分析を中心とした向精神薬、危険ドラッグの濫用事例、ブタンガスなどのガス吸引事例などの幅広い濫用死亡事例の分析なども行ってきました。アルコールや薬物の問題は、死因だけでなく疾患予防や事故予防など、臨床面でも社会面でも重要なキーワードであると考えております。

 京都大学法医学講座では、今後の研究の抱負として、法医実務に基づく研究とそれを担う基礎研究の双方を両輪として研究を行いたいと考えています。法医解剖を担う法医学者は少なく大きな問題となっており、法医解剖数は20年前くらいから増加していますが、法医学者の数はあまり変わっておらず、一人当たりの業務負担が増え、結果として各種報告書の遅延や研究への十分な対応が出来ないなどの不具合が出てきております。十分な研究時間を確保しづらくなっておりますが、若手法医学者は確実な法医実務スキルアップと並行して研究のための時間を確保する工夫を行っていきたいと思います。また、法医学領域は警察などの司法機関のみならず、各診療科、地元の医師、地方行政との連携が不可欠です。様々な領域の方と連携をしていきたいと思っておりますので、ご協力いただけましたら幸いです。母校ではありますが、一から新しい生活がはじまるという覚悟を持って挑みたいと思っています。ご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 21年ぶりの京都生活がはじまります。以前住んでいたころは学生で、主に大学周囲での生活でした。社会人として初めて京都に住むことになり大変楽しみです。学生時代には行けなかった場所にも出かけて京都を楽しみたいと思っています。


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