現状と分析
京都大学医学研究科(4年制一貫博士課程)学生は、生理系、病理系、内科系、外科系、分子医学系、脳統御医科学系の6専攻に属する107分野のいずれかの研究室に属し、そこで指導教員よりマンツーマンの個人指導を受け、研究技術と研究の進め方を学び、研究を行い、研究結果を論文にまとめ、peer-reviewのある国際雑誌に発表し、学位を受けてきた。これまでの専攻各分野(講座)における徹底した個人指導により、学生の特定専門分野における専門知識、能力の修得については、十分に達成されている。
一方、現代の医学では、基礎生物学と医学、基礎医学と臨床医学の垣根が無くなっており、専門分野とともにより大きな枠組みでの大学院教育が必要とされる。また個々の研究にも多様で高度な実験技術を用いた集学的な解析が要求され、一つの教室では対応できなくなっている。さらに、新研修医制度の導入に伴う人手不足もあり、臨床系教室で教員が日常的に研究指導にあたることが困難になっている。また、専門医制度と大学院をどう両立させるかも課題である。また、本研究科では、基礎研究に比べ患者さんを対象にした臨床研究がやや遅れている。
現在の課題
- 所属分野におけるマンツーマンの個人指導と研究領域における体系的な知識と技術修得をいかに両立させるか?
- 研究の進行に伴う領域をこえての集学的解析をいかに可能にするか?
- 新研修制度下での医学部卒業生にとって魅力ある大学院をいかにつくりあげるか?
これからの医学研究科のあり方
今後医学研究科大学院の方向性として、以下の3点があげられる。
- 基礎医学の分野において、生物学との融合が進み、個体レベルの生物学の一つの究極としての姿として医学が現れた。そのために生物学出身者の医学への参入・貢献がより顕著になっている。
- 病気の成因、病態の機構を生物学で語り、理解する時代が到来した。全てのdisciplinesを統合したサイエンスの登場であり、そのためにPhysician scientistの養成と供給の要請が高まっている。
- 臨床科学の確立が求められている。臨床でのpracticeを科学の言葉で取り扱い、発表するclinical scientistsの養成。Evidence-based Medicineの基礎をなす科学技術の習得とその実践。
また、京都大学医学部附属病院では、基礎医学研究と臨床医学をつなぐ「Translational Research」と「先端先進医療」に重点を置いた2つの活動が開始されている。
京都大学医学研究科がこれまで行ってきた施策
臨床医学研究促進のための施策として、社会健康医学系専攻の設置(統計学、疫学などの教育)、探索医療センターの設立(医師主導の臨床研究・治験)、EBMセンターの設立(アカデミアによる市販後薬物治験)、ゲノム医学センターの設立を行った。
21世紀COEを利用した大学院施策の試行として、テーマ毎の大学院生のretreatやポスター発表による相互交流も行った。
さらに、ナノメディシン融合教育ユニットの立ち上げによる教育面における医学工学連携も始まった。