突然変異機構研究部門クロマチン制御ネットワーク研究分野

DNA損傷応答機構は、真核生物においてはすべてクロマチン上で起こります。従って、クロマチン制御機構の理解が真核生物のDNA損傷応答の解明には必要です。私達は、これまでに原核生物を用いて明らかにされたDNA損傷応答の研究をクロマチン生物学から捉え直し、放射線生物学とプロテオミクスや蛋白質科学などの異分野との融合による新たな学問分野の構築を目指したいと考えております。さらにこれらの基礎的研究から得られた知見を放射線発がんあるいは老化の分子機構解明に発展させ、将来の医学研究にも貢献していく所存です。

研究・教育について

転写、複製、修復、組換えなどのDNA代謝はすべてクロマチン上で起こります。これらDNA代謝を制御する蛋白質群はクロマチンを介してネットワークを形成しています。私達は、クロマチン制御蛋白質を生理的な状態で複合体として精製し、その構成因子を同定することによりDNA損傷応答に関与するクロマチン制御蛋白質ネットワークを明らかにし、クロマチン動的変化を介したDNA損傷応答シグナルの解明に取り組んでいます。これまでに私達は、転写制御に関与するTIP60ヒストンアセチル化酵素を複合体として精製し、TIP60が転写のみならず放射線によって引き起こされるDNA二本鎖切断の修復機構に関与していることを示し、ユビキチン化酵素と連携しながらヒストンH2AXを損傷クロマチンから放出させることを明らかにしました。私達は、これらの知見をもとにヒストンの動的変化によってもたらされるエピジェネティクな変化とがん抑制シグナルとの関連を探りながら新たなゲノム疾患研究の構築をはかりたいと考えています。またこれらの研究を通して視野の広い若手研究者の育成にも取り組んでいきたいと考えております。
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①DNA損傷に応答してTIP60ヒストンアセチル化酵素複合体はユビキチン結合酵素UBC13と結合し、ヒストンH2AXをアセチル化およびユビキチン化する。このアセチル化とユビキチン化のリレー修飾が、H2AXのクロマチンからの放出を促す。このH2AXの損傷クロマチンからの放出は、損傷領域のクロマチン構造変換の一端を示していると共にDNA損傷応答シグナルとしても働いている可能性がある。
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②TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体の精製法の模式図を示す。エピトープタグであるFlagとHAを付与したTIP60を安定に発現するHeLa細胞から核抽出液を調整し、アフィニティークロマトグラフィーによりTIP60複合体を精製する。精製した複合体をSDS-PAGEに展開後、マス・スペクトロメトリー (MS)解析により、構成因子を同定する。
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③HeLa 細胞の核抽出液から精製したTIP60複合体をSDS-PAGEで展開し、銀染色したもの。

研究業績

1. Ikura, T., Ogryzko, V V., Grigoriev, M., Groisman, R., Wang, J., Horikoshi, M., Scully, R., Qin, J., Nakatani, Y. Involvement of the TIP60 Histone Acetylase Complex in DNA repair and apoptosis (2000). Cell. 102: 463-473.

2. Fuchs, M., Gerber, J., Drapkin, R., Sif, S., Ikura, T., Ogryzko, V., Lane, WS., Nakatani, Y., Livingston, DM. The p400 complex is an essential E1A transformation target (2001).Cell. 106: 297-307.

3. Ikura, T., Tashiro, S., Kakino, A., Shima, H., Jacob, N., Amunugama, R., Yoder, K., Izumi, S., Kuraoka, I., Tanaka, K., Kimura, H., Ikura, M., Nishikubo, S., Ito, T., Muto, A., Miyagawa, K., Takeda, S., Fishel, R., Igarashi, K., Kamiya, K. DNA damage-dependent acetylation and ubiquitination of H2AX enhances chromatin dynamics (2007). Mol. Cell. Biol. 27: 7028-40.

4. Dohi, Y., Ikura, T., Hoshikawa, Y., Katoh, Y., Ota, K., Nakanome, A., Muto, A., Omura, S., Ohta, T., Ito, A., Yoshida, M., Noda, T., Igarashi, K. Bach1 inhibits oxidative stress-induced cellular senescence by impeding p53 function on chromatin (2008). Nat. Struct. Mol. Biol. 15. 1246-54.

5. Katoh, Y, Ikura, T., Hoshikawa,Y., Tashiro, S., Ohta, M., Kera, Y., Noda, T., and Igarashi, K. Methionine Adenosyltransferase II Serves As a Transcriptional Corepressor of Maf Oncoprotein (2011). Mol Cell 41, 554-566.

研究室

准教授 井倉 毅
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